- 心不全って患者さんによって状況も治療も違うし、つかみどころがなくてちょっとよくわからない…
- 心不全療養指導士を取ろうと思っているけど、指定の教科書は難しすぎる…
- 心不全の患者さんを受け持つことがあるけど病態がさっぱりわからない…
このような悩みはありませんか?
実は、心不全の病態について考えるときは、まず「なんで心不全で息切れやむくみなどの症状が出るのか」がわかるとイメージしやすくなリます。
なぜなら心機能が悪くなる原因は様々ですが、心機能が悪くなった結果起こってくる病態は非常にシンプルだからです。
私は循環器専門医として多くの心不全患者さんの治療に携わっているなかで、そのように感じています。
この記事では以下の内容について解説しています。
- 左心不全が呼吸苦をきたす機序(左室の汲み上げ効率低下による肺うっ血・肺水腫)
- 右心不全が足のむくみきたす機序(右室の汲み上げ効率低下による下腿浮腫)
- 左心不全は尿量減少を介して体液貯留をきたすこと
この記事を読むと、様々な病態を含んだ心不全という症候をシンプルに捉えられるようになります。
この記事の内容は、以下の動画でも解説しています。
心不全の定義:まずは大まかなイメージをつかもう
日本循環器学会では一般の方に向けて、心不全を以下のように説明しています
心不全とは”心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気“
引用元:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
この説明を少し紐解くと、
- (何かしらの原因)→心機能低下→(何らかの機序)→呼吸不全・体液貯留
- 心機能は徐々に悪化し、ゆくゆくは末期心不全となる
このようなことを表しています。
“心不全”という病名は様々な状態を広く含んだ症候名なので、心機能が低下する原因は様々です。この記事では深堀りしません。
心機能が低下した結果として起こってくる病態は非常にシンプルなので、この記事ではこの点を中心に解説します。
予備知識:心臓の構造と働き
右心系と左心系
上の図のように、心臓は4つの部屋に分かれています。
- 全身から返ってきた血液は右心房・右心室を通り肺へ向かいます(右心系)
- 肺で酸素を受け取った血液は左心房・左心室を経て全身へ送られます(左心系)
各部屋の出口に逆流防止弁がついていますが、今回の説明には関わらないので割愛します。
全身の血液循環を物凄くシンプルにすると下図のようになります。
心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしている
一般にポンプの働きは以下の2つに分けることができます。
- 上流から水を汲み上げる
- 下流に水を送り出す
心臓でも同様に、
- 上流血液を汲み上げる
- 下流に血液を送り出す
という仕事をしています。「送り出す」という仕事だけでなく、「汲み上げる」という仕事もしていることが重要になります。
心不全による症状とその理由
心不全の症状について、こんな風に勉強した覚えはないでしょうか?
- 左心不全では呼吸苦がおこる
- 右心不全では下腿浮腫がおこる
もちろんこの説明は間違いではないのだけれど、
そもそも“左心不全→呼吸苦”や”右心不全→浮腫はなぜ起こるのか
この点を解説します。
まずは1番目の働きが不十分な「汲み上げ効率低下」に注目してみましょう。
左室の汲み上げ効率が低下すると、肺うっ血・肺水腫を呈する
左室の上流には肺がありますね。左室が肺から血液を汲み上げられないと、その上流にある肺静脈・肺胞の毛細血管レベルで血液量が増加しますこれを肺うっ血といいます。
その結果、肺の間質に水が漏れ出るた状態を肺水腫といいます。ちなみに肺うっ血は多少なりとも肺水腫を伴っています
- 肺うっ血:肺胞毛細血管レベル(血管内)で血液量が増加している状態
- 肺水腫:肺の間質(血管外の組織)へ血管内の水が漏れ出ている状態
肺の主な仕事は”ガス交換”(酸素を取り込んで、二酸化炭素を排出すること)ですが、肺うっ血や肺水腫の状態は肺の仕事を邪魔することになリます。そのため、肺でのガス交換効率が低下して、労作時呼吸苦・息切れといった症状が出ます。
左心不全で労作時呼吸苦・息切れが出現する理由・機序
- 左室が血液を汲み上げられないと、肺胞の毛細血管レベルで血液量が増加し、肺うっ血・肺水腫が起こる
- 肺の仕事はガス交換(酸素を取り込んで二酸化炭素を排出すること)
- 肺うっ血・肺水腫では、肺でのガス交換効率が低下して呼吸苦や息切れといった症状が出る
右室の汲み上げ効率が低下すると、下腿浮腫・胸水・腹水などを呈する
右心系には全身から血液が戻ってきます。右室が血液を汲み上げられないと、右室の上流にある全身に血液がうっ滞してしまうことになります。
右室に戻れない血液は全身にうっ滞しますが、液体は重力の影響でとくに下側(足側)にたまります。
その結果、もっとも顕著な所見として、下腿浮腫(むくみ)が起こります。
他にも、
- 胸水
- 腹水
- うっ血肝
などを伴うこともあります。
右心不全で下腿浮腫が出現する理由・機序
- 右室が血液を汲み上げられないと、全身(とくに下肢)に血液がたまる
- 下肢にたまった血液は血管外に染み出して下腿浮腫(むくみ)を呈する
呼吸苦も下腿浮腫もある場合の考え方
じゃぁ呼吸苦も浮腫もある患者さんはどっちなの?
という疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。この疑問に回答します。
左室が下流に血液を送れないことによる尿量減少→体液貯留
これまではポンプの機能のうち1番目の「汲み上げ効率低下」に注目しましたが、今度はもう一つの働きが低下した場合の「拍出効率の低下」に注目してみましょう。
左室の下流には多くの臓器がありますが、体液量を管理する臓器として腎臓に注目してみましょう。腎臓の主な仕事は”血液のろ過”、つまり尿を作って老廃物の排泄や、体液量の調節を行っています。
左心室の機能が低下して腎臓へ流れる血液(腎血流量)が低下すると、腎臓にとっては脱水傾向となリます。脱水のときに尿量が多いと脱水がさらに進行するので、腎臓では尿量を少なくするように調整が働きます。
すると、尿として排出されるはずだった水分は再び心臓へ戻ることになるので、静脈還流量が増加します。
静脈還流量:上大静脈・下大静脈から右房(右心系)へ戻る血液量のこと
右心系に多くの血液が流れてくるようになるので(容量負荷)、右室の上流(全身)に血液が溜まってしまう。
すると右心不全のところで解説したように、
- 下腿浮腫(むくみ)
- 胸水
- 腹水
- うっ血肝
こんな症状(所見)が出てきます。
そして右室に多くの血液が流れてくれば、その分多くの血液を肺へ送るようになリます。肺動脈・肺胞の毛細血管レベルで血液量が増加してやはり”肺うっ血”を起こします。
左心不全により下腿浮腫をきたす理由・機序
- 左室から全身に血液を送る効率が低下し、腎臓への血流(腎血流量)が低下する
- 腎血流量が低下すると、腎臓は尿量を少なくする
- 尿量が少なくなると、排出されるはずだった水分が体(右心系)にたまっていく
- 右室が汲み上げられないほどに下肢にたまった血液は、血管外に染み出して下腿浮腫(むくみ)を呈する
まとめ
この記事では、
- 左心不全が呼吸苦をきたす機序(左室の汲み上げ効率低下による肺うっ血・肺水腫)
- 右心不全が下腿浮腫きたす機序(右室の汲み上げ効率低下による下腿浮腫)
- 左室の拍出効率低下が尿量減少を介して体液貯留を起こすこと
について説明しました。
本日解説した内容は心不全のほんの一部ですが、たとえば
- 心機能はどれくらいか
- 心機能低下の原因はなにか
などがわかると、より深く患者さんに接することができると思います。
実際に皆さんが病棟で接する患者さんの多くは、呼吸不全と体液貯留の両方を伴っているこのような患者さんではないでしょうか。”呼吸不全だけ”であったり”体液貯留だけといった患者さんのほうが少ないと思います。
私のYoutubeでは今回の内容以外にも循環器診療に関わる病態・検査・治療などについて解説しています。よかったらアクセスしてみてください。
今日は以上ですお疲れさまでした^^