- 突然の胸の痛みや圧迫感――こんな症状、ありませんか?
- 日常生活に支障をきたすほどの胸苦しさ、心当たりはありませんか?
- 「胸が締め付けられるような感じがする…」あなたはその症状をただの疲労やストレスだと思っていませんか?
実は、これらの症状は狭心症や心筋梗塞といった、重大な心臓疾患のサインかもしれません。これらの症状を感じたとき、深刻な心臓の問題の可能性を考慮する必要があります。
私は循環器専門医として数多くの患者さんと向き合いながら、心臓の健康に関する重要な知識を提供してきました。
この記事では、狭心症と心筋梗塞の症状について詳しく解説します。具体的な症状やその背後に潜むメカニズムについても紹介します。
また、症状を感じた際にどのように対処すべきか、そしてどのようなときに救急車を呼ぶべきかについてもお話しします。
ご自身や大切な人の健康を守るために、ぜひこの知識を身につけてください。
狭心症・心筋梗塞による胸部症状の原因
狭心症や心筋梗塞によって生じる胸の症状は心筋虚血によって生じます。
心筋虚血の代表的な原因としては、
- 動脈硬化による冠動脈狭窄
- 冠動脈の攣縮
- 血栓による冠動脈閉塞
などが挙げられます。
詳しくはこのページで説明しています。
狭心症・心筋梗塞の典型的症状
胸の症状の原因が狭心症や心筋梗塞なのか、それとも他の原因なのかをすぐに判断するのは難しいことがあります。私たち循環器内科医はいくつかのポイントを見て判断しています。
胸痛の特徴
狭心症や心筋梗塞では、鋭い痛みよりも鈍い痛みや不快な感じを訴えることが多いです。具体的には、
- 重苦しい感じ
- 圧迫感や締め付け感
- 息が詰まる感じ
- 胸が焼け付くような感じ
などです。
その他の症状として、息切れ、吐き気、冷や汗、動機、失神などが出現することもあります。
痛みの場所と広がり
狭心症や心筋梗塞による胸の症状は、胸の中央からやや左側を中心として、ある程度の広がりを伴っていることが多いです。肩や上腹部が痛むこともあります。ただし、右側だけに痛みがある場合は、狭心症の可能性は低いです。
また、痛みはしばしば上半身の他の部位にまで影響することがあります。具体的には、みぞおち、首、のど、下あご、歯、左肩、左腕などに広がることがあります。胸部症状を伴わず、これらの部位にだけ症状が限局することもあります。
痛みのタイミングと変化
階段を上ったり、重たいものを持ったり、性行為をしたりするなどの活動中に痛みが始まり、休息すると5分以内に痛みが軽減するといった場合、労作性狭心症の可能性があります。
一方、冠攣縮性狭心症では、夜から午前中にかけて安静時に症状が現れることが多く、約20分ほどで自然に改善することが一般的です。
急性心筋梗塞の場合は、朝方に症状が現れることがやや多いとの報告もありますが、明確な傾向は認められません。
これらの違いは、どのような理由で心筋虚血が誘発されるかの違いによります。詳しくは以下のページでも解説しています。
ニトログリセリンの効果
すでに狭心症の可能性が疑われて、病院やクリニックからニトログリセリンという薬を処方されている方もいらっしゃると思います。
胸の症状が狭心症によるものであれば、ニトログリセリンの使用後に1~2分以内に痛みが和らぐことが多いです。
心筋梗塞の場合も症状が軽くなることがありますが、効果は限定的です。
心筋虚血以外の胸部症状・疾患
もし胸に痛みや不快感がある場合でも、それが必ずしも狭心症や心筋梗塞という大きな心臓の問題とは限りません。他にも別の病気の可能性があります。
狭心症を示唆しない胸部症状(否定的な症状)
過去の調査研究から、以下のような症状は、狭心症や心筋梗塞よりも別の病気の可能性のほうが高いことがわかっています。
- 呼吸運動や咳に関連した鋭い痛み
- チクチクする痛みや、ナイフでさされたような痛み。
- 指1本でさせるような狭い範囲の痛みや不快感
- 体をひねったり動かしたり、押したりして再現される不快感
- 一定の痛みが何日も続くもの
- 数秒かそれ以下の一時的な痛み
狭心症や心筋梗塞以外の原因
胸の痛みは他の多くの問題によって引き起こされる場合があります。例としては次のものが挙げられます。
- 逆流性食道炎や胃潰瘍などの消化器系の問題
- 胸の筋肉を使う活動後の筋骨格系の問題
- 帯状疱疹など皮膚疾患によるもの
- 手術を含む胸部への外傷
- パニック障害やうつ病などの精神疾患によるもの
これらの多くは緊急を要するものではありません。しかし、胸の症状が狭心症や心筋梗塞によるものでなくても、その他の緊急疾患である可能性もあります。
狭心症や心筋梗塞以外の緊急疾患には以下のようなものがあります。
- 大動脈解離
- 肺塞栓(エコノミークラス症候群)
- 緊張性気胸
- 食道破裂
これらも比較的短時間で病態が悪化する可能性があり、速やかな対応が必要となります。
早期対応の重要性
胸痛や不快感はさまざまな原因によって引き起こされます。その多くは深刻なものではなく、胸の痛みがあるからといって、必ずしも心臓発作が起こっているわけではありません。
しかし、胸痛は心筋梗塞やその他の緊急疾患の兆候である可能性があるため、できるだけ早く助けを求め、治療を受けることが重要です。
救急車を呼ぶべき症状
胸痛の場合、以下の特徴に当てはまる場合にはすぐに救急車を呼ぶべきです。
- 新しく出てきた胸痛
- 重度の胸痛
- 数分以上続く胸痛
- 身体活動によって悪化する胸痛
救急車の適正な利用について議論されることもありますが、このような場合は是非救急車を呼んでください。自分で車を運転して病院に行ったり、他人に車の運転を頼んだりすることはおすすめできません。
救急車を呼ぶことの重要性
救急車を呼んだほうが良い理由として次の2つの理由があげられます。
救急車を呼ぶべき理由1:呼ばないと治療開始が遅れるから
救急隊員は到着した瞬間から胸痛の評価と場合により酸素投与などの治療を開始することができます。車で病院に行く場合は、救急外来に到着するまで治療を開始することができません。
救急車を呼ぶべき理由2:移動中に急変する危険性があるから
例えば、急性心筋梗塞を発症すると命に関わる不整脈が出現することがあります。病院に向かう途中で重篤な不整脈などの危険な合併症が発生した場合、救急救命士は電気的除細動を行うなど、問題を直ちに治療できるよう訓練を受けています。
心筋梗塞を発症していた場合、発症から治療開始までの時間をできる限り短縮することがとても重要になります。時間が遅れると、以下のデメリットが生じる可能性があります。
- 救命率が低下する
- 救命できたとしても心機能が大きく低下する
- 生命予後が悪化する(早死する可能性が高まる)
症状のみで心筋梗塞を否定することはできない
症状が典型的ではないからといって、心筋梗塞の可能性を除外することはできません。特定の患者さんでは典型的な症状を示さないことがあるからです。
高齢者、糖尿病患者、女性患者などでは、息切れ、倦怠感、食欲不振、失神などが心筋虚血の兆候であることがあります。
まとめ
この記事では、狭心症・心筋梗塞による胸部症状の特徴について詳しく解説しました。同時に、ニトログリセリンの効果にも触れました。
また、症状だけでは心筋梗塞を否定できないことや、早期対応の重要性を強調し、救急車を呼ぶべき症状とその重要性についても説明しました。
この記事が、胸部症状と適切な対応の重要性について理解を深める一助となれば幸いです。
書籍でもっとよく知りたい方に向けて、おすすめ書籍を紹介しておきます。興味のある方は手にとって読んでみてください。
今回の記事が皆さんのお役に立てれば幸いです^^