急性心不全なんて、利尿薬で体に溜まっている水分を体外に出せば良くなると思っていませんか?
実は、利尿薬だけでは治療はがうまくいかないことのほうが多いです。
なぜなら、体液貯留をきたしていなくても心不全増悪(肺水腫)をきたすことがあるからです。
私は循環器専門医として急性期病院での診療に従事していて、心不全の病態改善に利尿薬だけでなく他のアプローチを必要とする症例の方が間違いなく多いと実感しています。そしてそれらのアプローチを行う上で、肺水腫について理解しておくことは非常に重要と考えます。
そこでこの記事では、
- 肺水腫とはどのような状態なのか
- 肺水腫を起こす要因
について解説しています。
この記事を読むと心不全(肺水腫)を改善させるために循環器内科医がどのような視点で治療を行っているかがわかります。医師だけでなく、看護師さんを含めた治療に関わるすべての医療従事者の方々が知っておいて損はないと思います。
結論は次のとおりです。
- 肺水腫とは、肺の間質に液体成分が染み出している状態
- 肺水腫が起こる原因は以下の3つ
- 血管内静水圧の上昇
- 血液浸透圧の低下
- 血管透過性の亢進
- 肺水腫の治療はこれらのどこにアプローチするのかを考える必要がある
以下の動画でも本記事の内容を解説しています。
急性心不全患者が退院するための必要条件:肺水腫の改善
急性心不全とは心臓のポンプ機能が低下することで急激に様々な症状や徴候が出現する病態ですが、その徴候の1つに呼吸不全(酸素投与を要すること)があります。
急性による呼吸不全は原因の大半が(心原性)肺水腫です(心不全によって肺水腫・体液貯留などをきたす機序は、こちらのページで詳しく解説しています)。
肺水腫とは肺がむくんでいるということ
肺水腫とは、肺の間質に液体成分が過剰に貯留した状態(間質液増加)のことです。間質とは細胞外の支持組織・結合組織のことですが、ここでは(毛細)血管の外という理解で十分です。
同様の現象で馴染みのあるものに”下腿浮腫(足のむくみ)”があります。下腿浮腫も、足の間質に液体成分が過剰に貯留した状態のことです。
足の間質に液体成分が過剰に貯留すれば下腿浮腫となり、肺で起これば肺水腫となリます。
要するに肺水腫は、肺ががむくんでる状態ことで、局所的に起こっている現象は下腿浮腫と一緒です。
急性心不全の入院適応と治療目標
呼吸不全を伴う急性心不全は、少なくとも酸素投与を要するため入院適応となります。その様な患者さんの治療に際して、肺水腫を改善させることは治療目標の1つであり退院の必要条件となることから、
- 肺水腫を起こす要因
- 肺水腫を改善させるためのアプローチ
を知っておくことが大切です。
液体成分の移動に関わる3要素:静水圧・浸透圧・血管透過性
肺水腫や浮腫は、末梢血管レベルで血管内の液体成分が血管外(間質)に漏出することによって起こります。
末梢血管は半透膜の声質を持っています(半透膜とは”一定の大きさ以下の分子またはイオンのみを透過させる膜“のことです)。
血液と間質液は血管壁という半透膜に隔てられ存在しており、様々な条件下で液体成分は半透膜を超えて移動することができます。
液体成分の移動に関わる要素は以下の3つです。
- 静水圧:血管内の物理的な圧力(血圧など)によるもの
- 浸透圧:血液成分の濃度によるもの
- 血管透過性:血管自体の性質
静水圧
これは血管内の圧力、つまり水圧のことです。動脈では血圧に相当します。
半透膜を隔てて液体成分は水圧が高い方から低い方へ移動するので、血管内に血液がうっ滞して内圧が上昇すると、液体は血管外に漏れやすくなリます。
また下腿浮腫に対して外からストッキングなどで抑え込んであげれば、間質液は血管内に戻って下腿浮腫は軽快します。
浸透圧
浸透圧は、半透膜で隔てられている液体の”濃度に差”があるときに発生します。お風呂に長く浸かっていると指先がふやけてくるのもこの浸透圧が関係しています。
濃度の異なった2種類の液体を半透膜を隔てて隣り合わせに置くと、濃度の薄い方から濃い方へ液体が移動する方向に力が働きます(同じ濃度になろうとする)。この力を浸透圧といいます。
血液の浸透圧に影響する要素として、
- 血清アルブミン値
- 血清ナトリウム値
- 血糖値
- 血清尿素窒素
などがあります。低アルブミン血症・低ナトリウム血症などの場合は、血管内に液体成分をとどめておく力が下がると理解してもらえばよいです。
食事摂取量が低下するとアルブミン値も低下するので、「患者さんがちゃんと御飯を食べているかどうか」を循環器内科医は浸透圧の視点でも気にかけています。
血管透過性
半透膜の透過性とは、液体成分が半透膜をどれだけ移動しやすいかということです。血管に置き換えると、血管壁が血管内の液体成分をを透過させる能力と言い換えることもできます。
透過性が亢進していると液体成分は移動しやすくなり、血管内に水分を保持できないため外に漏れやすくなります。透過性が亢進する具体的な病状としては、以下のようなものがあります。
- ARDS:急性呼吸促迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome)
- 感染症
- アレルギーなど
この記事では詳しく説明しませんが、ARDSは血管透過性の亢進によって起こる肺水腫です。臨床的にも重要となりますので病名だけでも知っておいて損はないと思います。
まとめると肺水腫や浮腫など、血管外に液体成分が漏出する要因は以下の3つになります、
- 血管内静水圧の上昇:水圧が高い方から低い方へ液体成分は移動する
- 血液浸透圧の低下:浸透圧が低い方から高い方へ液体成分は移動する
- 血管透過性の亢進:血管壁が血液を血管内に保持できなくなる
肺水腫・浮腫を改善させるアプローチ
肺水腫・浮腫の治療として、これまでに説明してきた3つの要因にそれぞれアプローチすることができます。
具体的には、
- 血管内静水圧が高い場合は下げる:利尿・血管拡張など
- 浸透圧が低い場合は上げる:アルブミン補充・血清ナトリウム値の補正など
- 血管透過性が亢進している場合はその原因疾患を治療する:感染症治療など
このような選択肢が考えられます。
具体的な治療薬などについては以下の記事で解説しています。
- 急性期薬物療法
- 急性期非薬物療法:NPPV
- 急性期非薬物療法:IABP
まとめ
結論
- 肺水腫とは、肺の間質に液体成分が染み出している状態
- 肺水腫が起こる原因は以下の3つ
- 静水圧の上昇
- 血液浸透圧の低下
- 血管透過性の亢進
- 肺水腫の治療はこれらのどこにアプローチするのかを考える必要がある
補足
この記事で要因を3つ説明しましたが、現実的には心不全による肺水腫・浮腫では静水圧の上昇が主体です。
肺胞毛細血管内圧の上昇により肺水腫を、末梢毛細血管内圧の上昇により下腿浮腫をそれぞれ呈します。そのため治療は静水圧を下げることが主体になります。
その手段の1つとして利尿薬は多用されますが、利尿薬だけでは治療はがうまくいかないことのほうが多いです。低ナトリウム・低アルブミンなど“浸透圧が低下”しているために治療に難渋したり肺炎など、“血管透過性が亢進”する病態を合併していて治療の妨げとなることもあるのでこれらの点も評価して治療手段を選択します。
たしかに利尿薬は血管内静水圧を下げることに寄与しますが、入院を要するような心不全の患者さんは、利尿薬のみで病態が改善する患者さんは少ないです。この記事で説明した浮腫を起こす要因を考え、他のアプローチを要することもあります。低ナトリウム・低アルブミンなど、”浸透圧が低下”していて治療に難渋したり肺炎など、”血管透過性が亢進”する病態を合併していて治療の妨げとなることもあるのでこれらの点も評価して治療手段を選択します。
具体的な治療方法については、別の記事で詳しく説明しています。薬剤やデバイスがどのように心不全を改善させるのか、一緒に勉強していきましょう。
今日は以上です、お疲れさまでした^^