徐脈の患者さんに遭遇したとき、どう対応すればよいか困ったことはありませんか?
初期対応としてアトロピンを用いることを知っていても、アトロピンが無効であった場合に慌ててしまうこともあると思います。
実は、症候性徐脈の初期対応はAHA(アメリカ心臓協会)によりわかりやすいフローチャートが作成されています。
私(循環器専門医)はこのフローチャートをもとに、当院の研修医・内科専門医の先生方や循環器病棟・救急外来に従事する看護師さんたちに初期対応を説明し、「わかりやすくイメージできるようになった」と好評いただいています。
この記事では循環器専門医である私(ころくま)が、症候性徐脈の初期対応について、ACLSの内容そのままではなく、みなさんが実践しやすい形で私の見解も添えて解説しています。
【症候性徐脈とは】50bpm未満かつ自他覚症状を有する徐脈のこと
症候性徐脈とは「心拍数が50bpm未満かつ、徐脈に伴う自覚症状・他覚症状を有する徐脈」のことです。
一般的に徐脈の定義は60bpm未満とされることが多いですが、症候性徐脈の場合は50bpm未満の場合がほとんどです。
症候性徐脈の3つの臨床的基準
症候性徐脈には以下の3つの臨床的基準があります。
- 心拍数が遅い
- 患者に症状がある
- 症状は遅い心拍によるものである
スポーツ選手などでは生理的に50bpm未満であることがありますが、これは無症候であり治療不要です。
患者が循環不良の自他覚症状を示しているかが治療を要するかどうかのポイントになります。
徐脈による自他覚症状5つ
症候性徐脈の際に起こりうる自他覚症状は以下の5つです。
- 低血圧
- 急性意識障害
- ショックの兆候
- 虚血性胸部不快感
- 急性心不全
低血圧・ショックについては適切な初期対応がなされなければ心停止に至る可能性が高いです。鑑別や初期対応を含めてこちらのページで詳しく説明しています。
【症候性徐脈を起こしうる3つの不整脈】洞不全、房室ブロック、徐脈性心房細動
症候性徐脈を起こしうる不整脈には、
- 洞不全症候群
- 房室ブロック
- 徐脈性心房細動
の3つがあります。これらを最初から細かく鑑別できる必要はありませんが、不整脈の種類により一部初期対応が変わってきます(詳細は後述します)。
しかし、不整脈の種類や以下の房室ブロックの型などを確認することは第二の目標で、不安定な徐脈を認識できることがより大切になります。
洞不全症候群
洞不全症候群は以下のようにさらに3つに分類されます。
- Ⅰ群:洞徐脈
- Ⅱ群:洞停止、洞房ブロック
- Ⅲ群:徐脈頻脈症候群
いずれの場合も、症候性であれば治療適応となります。
房室ブロック
房室ブロックは大きく以下の4つに分けられます。
- 1度房室ブロック
- 2度房室ブロック(ウェンケバッハ型、モビッツ型)
- 高度房室ブロック
- 3度房室ブロック(完全房室ブロック)
このうち問題になるのはMobitz型2度房室ブロック、高度房室ブロック、3度房室ブロック(完全房室ブロック)です。
とくに3度房室ブロック(完全房室ブロック)は心血管虚脱を引き起こしやすく直ちにペーシングを必要とすることから、一般的に臨床上最も重要なブロックです。
房室ブロックについて詳しくはこちらのページでも説明しています。
心房細動
心房細動は心拍数が速い(頻脈性)場合と、心拍数が遅い(徐脈性)である場合があります。徐脈性心房細動の場合は徐々に心拍数が低下するため緊急対応を要する場合は少ないです。
初期評価と治療の概要
初期評価(バイタルチェックと基礎原因特定)
まず初期評価として行うべきことに、以下の項目が挙げられます。
- 気道管理、必要に応じて呼吸補助や酸素投与
- 心電図モニターでリズム確認(可能であれば12誘導心電図)
- 血圧・酸素飽和度モニタリング
- 静脈路確保
上記の初期対応に加えて、徐脈の原因として低酸素や中毒が想定される場合はそれらの原因精査も並行して行います。
アトロピン
アトロピンはコリン作動性の心拍数・房室結節伝導能の低下を改善する薬剤で、徐脈治療の第一選択として使用されます。
アトロピンの使用方法
- 1mg(2A)を3〜5分ごとに静注
- 徐脈の改善が乏しければ数分ごとに総投与量3mgまで追加投与を考慮可能
気をつけておくべきこととして、
- モビッツ型2度房室ブロック
- 高度房室ブロック
- 3度房室ブロック(完全房室ブロック)
はアトロピンが効かない!(コリン作動性への拮抗作用に応答しない)
そのため、上記の不整脈ではアトロピンに頼ってはいけません。次に述べるようなドパミン・アドレナリン投与や経皮ペーシングを行います。アトロピン投与によってペーシングやドパミン・アドレナリンの投与を遅らせてはいけません(アトロピンの最大投与量を待つ必要はありません)。
ドパミン、アドレナリン
ドパミンとアドレナリンはどちらも交感神経ベータ刺激作用により心拍数・心収縮力を上昇させる薬剤です。アトロピン無効例の場合、ドパミンもしくはアドレナリンのどちらかを用います。また、以下に述べる経静脈ペーシングまでの一時的処置として用いることもあります。
ドパミン使用方法
- 5~20μg/kg/min(ガンマ)で持続静注します。
- 10ガンマ以上では血管収縮作用による血圧上昇も期待できます。
※ガンマ計算は複雑に思えるかもしれませんが、多くのドパミン製剤では薬剤の袋に体重別投与量の表が載っていますので、この表を参考にしてください。
■図
アドレナリン使用方法
- 2~10μ/minで持続静注
アドレナリン1Aは1cc/1mgでので、1Aを500mLの生理食塩水に混注した場合、60~300ml/hで投与すれば良いことになります。しかし、緊急を要するときにはこの数字を覚えていなかったり計算する余裕がない場合もあると思います。
個人的には、
- 1Aを500mLの生理食塩水に混注し、小児用点滴(60滴1mL)で末梢からクレンメ全開で投与し、心拍数が上昇してきたらクレンメを締めて調整する
という方法をお勧めしています。
経皮ペーシング
経皮ペーシングとは、胸に貼ったパッドから心臓へ電気刺激を送ることで心臓を収縮させて脈を作るペーシング方法です。除細動器に備わっているペーシング機能を用います。循環動態が不安定な患者がアトロピンに反応しない場合や、静脈路が確保できない場合は経皮ペーシングの適応となります。
経皮ペーシングの使い方
- 除細動器の三点誘導とパッドを装着する
- ペーシングの頻度を60~80回/分程度に設定する
- 設定は「デマンド」にする(アーチファクトによりうまく作動しない場合は設定を「フィックス(固定)」にする)
- ペーシングを開始し、出力(電流値)を調整する(安定して脈拍を作ることができる最低の電流値から2mA高い値に設定する(安全マージン))
経静脈ペーシング
頸静脈ペーシングは、内頚静脈もしくは大腿静脈から右室心尖部に静脈リードを挿入し、心臓を直接電気刺激することで心臓を収縮させて脈をつくるペーシング方法です。前述のドパミン、アドレナリン、経皮ペーシングは基本的には経静脈ペーシングまでの一時的な処置となります。
経静脈ペーシングは循環器内科医が行う処置となります。循環器内科医へ相談するタイミングは、アトロピン無効例の治療(ドパミン、アドレナリン、経皮ペーシング)と並行して連絡してください。
まとめ
症候性徐脈の初期対応について説明しました。
大まかな要約・流れとしては、
- 循環不良の兆候がない→モニタリングと観察を継続
- 循環不良が認められる→アトロピン投与
- アトロピン無効例→経皮ペーシングを使用するか、ドパミンもしくはアドレナリンを投与
- 専門医へ相談し経静脈ペーシングを検討
となります。
より詳しく勉強されたい方は、ACLSプロバイダーマニュアル AHAガイドライン2020準拠を購入されることをお勧めします。
皆さんのお役に立てれば幸いです^^